スティールドラムとは


カリブの島国、トリニダードトバゴ共和国で発生した楽器。
第2次世界大戦前後から発達し、比較的歴史は浅い。もちろん電気的な細工は一切ないので、「20世紀最後のアコースティック楽器」と言われている。
「ドラム」といってもパーカッションではなく、ちゃんとメロディーを奏でることができる。初期はオモチャ同然の音階しかなかったが、様々な改良を続けるうちに、現在では最小28、最大34〜36の完全な半音階の音域を実現している。
現地トリニダードでは「SteelPan」または「Pan」、日本では「スティールパン」「スティールパン」、「スチールドラム」と呼ばれるのが一般的だ。
その構造は非常にシンプルで、シルエットはドラム缶そのもの。ただし最近ではクロムメッキを施したものが多く、光り輝く見栄えは非常に美しい。そのためパッと目にはドラム缶とはわからない程だ。


スティールパンの歴史

他の中南米・カリブ諸国の例に洩れず、16世紀以降のヨーロッパ人の進出により、トリニダードには大量のアフリカ人奴隷が連れてこられた。奴隷制は1838年に廃止されたものの、その後も黒人の地位が低かったことは想像に難くない。そんな日常の苦しみを和らげるのは音楽しかなかった。 トリニダードのカーニヴァルは、奴隷解放後に黒人がヨーロッパ人のカーニヴァルを真似て始まった、といわれている。しかし暴動に発展する危険性から、当局は様々な規制を進めた。1881年にはカーニヴァルでの太鼓の使用が、官憲との衝突事件の発生により、禁止されてしまう。そのためカーニヴァルでは、タンブー・バンブーが盛んになる。しかしこのタンブー・バンブーも、1937年の石油労働者のストライキで暴動が起こったことにより、禁止令が出る。
本格的なSteelPanの起源は、1930年代のことだ。カーニバルで、太鼓を叩く代わりに、鍋やゴミ箱のフタなどを叩きならしてお祭り騒ぎを楽しんでいた。そしてウインストン・スプリー・サイモンなる人物が、変形したドラム缶の凹みから偶然、音階を出せることを発見した。
さて1940年代、エリー・マネットが初めてピアノの音階に合わせた、8音階のスティールパンを作った。これがSteelPanの原型となる「ピンポン」である。“スプリー”サイモンは「ギターパン」「チェロパン」などを作成し、ここに現在のスティールパンのラインナップが揃う。しかし時代は第2次世界大戦の真っただ中で、世に出るのはしばらくの時間がかかった。 終戦直後から、数々のスティールバンドがデビュー。当局は例によって規制を試みたが、1950年代には音楽文化としての認知度が高まる。クリケットのチームに同行してイギリスで演奏し、世界にその名を知らしめた。 1963年の独立翌年から、カーニバルでのスティールバンド・コンテストが開催されることとなる。
そして1992年、SteelPanは、当時の首相より、晴れて「National Music Instruments=国民楽器」の指定を受けた。
 

スティールドラムの種類


テナー(Tenor Pan)
いわゆる「フロントライン」、メロディー部分を担当する。オーケストラでいうところの、バイオリンだ。元来、テナーパンは(ピアノと同じ)Cから始まるタイプが一般的だったのだが、低音のCは意外と使われないことから、Dから始まるテナーパンが普及している。そのためCから始まるテナーパンを「ロウテナー」、Dから始まるそれを「ハイテナー」と呼び区別している(ロウテナーのレンジは一般的にC4〜E6、ハイテナーはD4〜F♯6)。 ハイテナーはロウテナーに比べ、パンの湾曲面がゆるやかなので、比較的演奏も楽だ。でも個人的には、やはり低音のCは、あった方が何かと都合がいいと思う。もし買うのなら、ロウテナーの方を勧める。 この2つのテナーの他にもう1つ、ダブルテナーと呼ばれるテナーパンがある。これはその名の通り、パンを2つ並べたもので、特に低音をカバーしているので、ソロの場合に威力を発揮する(レンジはF3〜B5)。 通常、テナーパンの最高音はEだが、なかには最高音をFやF♯に拡張しているパンも存在する。ハイテナーの最高音は、たいていF♯だ。

ダブルセカンド(Double Second)
主に伴奏で使われ、和音を奏でたりする。特に低音部のハーモニーといったら、惚れ惚れするほど美しい。リード楽器としても十分に通用する音階の幅(F♯3〜C♯6)だ。そのためダブルセカンドのソロはメロディアスで、非常にカッコイイ。なお、日本では“ダブルセコンド”と呼ぶのが、ホントは一般的だ(英語だと“セカンド”って聞こえるけど・・・)。










ダブルギター(Double Guitar)
主にコードを演奏する。もちろん(名前からしてそうだが)2つのパンからなり、写真はその片割れだ。「ギター」という名前はギターをいい加減に弾いたような音がするからだとか(資料の読み間違いかも知れないが)。確かに他のパンはピアノのような美しい音色なのだが、このギターパンだけは、ドラム缶をそのまま叩くに近い“妙な鈍い音”がする。ある人は「品のない音」と言っている(笑)。しかしその分、バンドに入ると独特な存在感があって、けっこう目立つ「オイシイ存在」でもある。 音階の幅は(C♯3〜G♯4)。 なお、ドラム缶を3つ使って更に音域を広げたギターもあり、それはトリプルギターと呼ばれている。






チェロ(Cello)
低音を担当し、ベースラインのサポートを行う。メロディーにもいろいろと絡んで、曲に厚み&深みを加える。小編成のバンドでは省略される場合も多いが、もちろんなくてはならない存在だ。パン3個のトリプル・チェロ(B2〜B♭4)と、4個のフォー・チェロ(B♭2〜C♯5)がある。











クアドラフォニック(Quadraphonic)
乱暴に言えばチェロの兄弟のようなもの。名前の通り、4つのパンからなる。フロントの奏でるメロディーの補助や、アレンジ的なハーモニーを作る(・・・でも正直、役割はよくわからん)。 チェロと同じく、小編成では省略される場合が多い。音階の幅は(B2〜B♭5)
ベース(Bass)
ベースラインを担当する。形は、ドラム缶そのまんま。様々な形態があり、パンを4〜12個使用する。プレイヤーは自分の周りにパンを円形に並べ(まるでパンに囲まれているよう)演奏するのだが、1つのパンからは3つ4つの音しか出ないので、演奏を見ていると、プレイヤーは身体を軸にして手がアッチ行ったりコッチ行ったりと、非常に忙しい。

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